電圧制御ハードウエア設計時の注意: ファームウエアにおいて設定電圧を制御する場合、ユーザ電圧値(ボルト)から DA コンバータへ出力するバイナリ値への変換およぼその逆変換の演算が必要であるが、その演算が整数で割り切れるようハードウエアを設計することが望ましい。
例えば、 設定精度 1V で 0 -- 5000V の設定電圧を必要とする電極の場合、16bit DAC を用いて 5000V を符合なし整数値 50000 (0xc350)とする。この場合 1LSB = 0.1V の分解能となる。この設計上の LSB 精度は round off に伴う誤差を回避するため、設定精度に対して少なくとも2倍必要である。
このように設計することにより、以下の問題を回避することができる。
デジタルコンピュータにおいて実数と整数の演算や比較に伴う誤差を十分認識したハードウエア設計は、ソフトウエアの誤りを早期に発見することができ、適切な電圧モニター回路および基準電圧発生回路を組み込んだシステム設計とすることで莫大な設計バリデーションコストの削減につながり、しいては製造ならびにサービスコストを大きく低減させることにつながる。
筆者は、およそ 25年前から欧州・米国の製薬企業とともに液体クロマトグラフィーの GMP 対応に様々な仕事をしてきた。医薬品製造現場ではかなりの台数の装置が並列に稼働するため、装置バリデーションの自動化は必要不可欠であったが、当時はアナログでの制御からデジタルでの制御に移行しはじめた頃であり製造現場ではまだ多くのトリマーを調整して出荷していた。 GMP 環境で装置が適切に作動していることの記録による保証を自動化するにはトリマーは不都合である。基準電源をはじめ、紫外可視領域の波長の標準であるホロミウムガラスなど様々な基準信号発生機能を組み込み、ディザリング技術などを駆使することでトリマーを図面からなくしていった。数学的な設計検証とバリデーションによって理論的に正しく実数空間と整数空間を対応させることができるよう時間をかけて設計が変更されてきた歴史である。当初はそれら設計の増大によるマテリアルコストの増加が問題視されたが、振り返ってみるとハードの試作に続くソフトウエアの評価、試作品バリデーション、装置の製造およびフィールドサービスコストを大きく引き下げ今では当時に10分の1の価格で流通する装置となったことは多くの人の知るところである。