AD コンバータによるデータのサンプリングは、実数空間のアナログデータを数値化するために量子化誤差を生ずる。例えば、0V から 1V までなめらかに、かつ直線的に電圧が上昇する系がありこれを 8 bit AD 変換した場合、得られる結果は 256 ステップの階段状のグラフが得られる。
ディザーリングは、任意のホワイトノイズをこの原信号に加えることで量子化誤差を小さくする方法である。
図は、Mersenne twister 19937 アルゴリズムを用いて生成したノイズ波形の中央に、仮想スペクトル信号として、ピーク高さ 0.4、幅0.5 となるようなガウス分布カーブを重ねている。図、上のグラフはアナログ的に表現された原波形(生の波形)を表示したものである。すなわち、仮想スペクトルピークはノイズに対して S/N = 0.5 であり、かつすべてのデータは 1.0 以下であることから、このスペクトルをどれだけ積算しても結果はすべてゼロとなるはずである。
しかしながら、この疑似スペクトル信号に、振幅 1.5 — 2.0 となるようなホワイトノイズを同様に Mersenne twister 19937 によって与え(加算)、そのノイズを加算したスペクトルを 128 回積算することにより図、下のスペクトルが得られる。
前節に述べた通り、アナログ的なスペクトル積算は、積算回数の平方根に比例するにとどまる。この例では、量子化誤差における 1/0 を確立論的にランダム化してビット分解能近傍にすることで目的波形を可視化している。この例では、わずか 128 回の積算で、S/N は 1000倍以上の改善に成功している。
これらデジタル積算を有効に、かつアーティファクトなく行うには計測対象となる波形の周波数特性や強度範囲をよく理解したうえで設計することが極めて重要である